この劇薬、薬となるか毒となるか?(毒編)

最近は効果の高い薬が増えて便利になってきましたね。ちょっとした症状であれば市販薬で症状が随分楽になります。ですが元々は薬というものは量や使い方によっては毒なんです。したがって副作用には注意をする必要があります。

前回は優秀人材の確保ができる特効薬としてのスモール M&Aを紹介しました。今までいろんな経験を積んできたり育成されたりしてきたキーパーソンを短期間に獲得できることは、組織の成長を大きく左右します。

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ですがやはり、M&A というのは性質の異なる組織が一つになるもの。当然、いろんな副作用もあるので注意が必要です。

今回は、M&Aが組織に及ぼすデメリットや注意点についてお伝えします。

つまり前回の薬編に対し、今回は「毒編」です。

目次

文化の違いとお互いのプライドに要注意

この事例は私が実際に関わったM&A です。老舗企業が外資系企業から事業譲渡で工場とブランドを譲り受けました。事業譲渡の場合、そのままでは従業員は引き継がれませんが、この時はほとんどの従業員が新会社との雇用契約を結びました。

文化の違い

二つの組織では考え方や仕事の進め方が全く違います。何でも数字で評価して、とにかくスピーディーに物事を進める外資系。反対に、やんわりと曖昧な部分も残しつつ、ゆっくりじっくりと物事を進める老舗企業。一つの会社になって一緒に仕事をしようとすると、やはり不具合が起きてきます。

お互いのプライド

統合プロジェクト

買い手側の社内システムに合わせていくのがセオリーです。この時点で買われた側のプライドにはヒビが入ってきます。「もっといい仕事の仕方があるのに」と心の中では思いながら、新しい仕組みに順応していく必要があるからです。

主要ポストへの登用

統合後まもなく、外資系工場にいた管理職たちを、老舗企業の主要ポストに登用しました。

組織の壁を作り出してしまう管理職を早いタイミングで取り込んでしまうことで、統合のスピードを早めたわけです。これは見事な手法だと思います。ところが、管理職の心の中には「今までの外資系のやり方の方が優れている」という想いが渦巻いています。

新しい役割をもらって上手く組織を支えることができた人がいた一方で、反対に拙速に外資系企業の手法を持ち込もうとして反発を招いてしまった人もいました。

新しい仕組み導入

統合が落ち着いてきた段階で、今度は外資系の仕組みを導入していきました。ここでやはり老舗企業側のアレルギー反応が出ます。まず横文字が苦手なのです。そして何より、今まで自分たちがコツコツ努力してきたことを否定されてるような気持ちになってしまいました。前向きに取り組む人と、ついていけなくて不満がたまる人に分かれて行きます。組織として一枚岩になれない状態は大変危険でした。

このように、理論的に正しいと思える施策を打っても、うまくいかないことがあります。これが人です。特にM&Aの後は、従業員の心理状態が非常に繊細になっていることに配慮する必要があります。

植民地統治の歴史

反対に、外資系が日本企業を買収した後の統合にも関与しました。この時は、比較的うまく進みました。なぜなら、外資系のプログラムが確立していたからです。M&Aが日常化している企業にとって、各プロセス(経理、人事、営業など)の運営方法は世界標準で統一されています。また、新しく加入した会社をどう統合していくか、細かいステップが決まっています。さすがは過去には植民地支配を続けてきた国です。おそらくその時の経験も活かされているのでしょう。有無を言わさぬ力強さと緻密な運用は見事でした。

では、どうすれば上手くいくのか?

買収後の企業統合のプロセスをPMIといいます。今年度、中小企業庁が中小PMIガ イ ド ラ イ ンを発表しており、その重要性を明らかにしています。かつてより、日本企業はPMIがヘタクソだと言われていました。失敗してしまう(=想定していた成果が得られない)M&Aが多いのです。

中小PMIガ イ ド ラ イ ンより 中小企業庁

では、どうすれば前に述べたような失敗を防ぎながら、M&Aを成功させることができるのでしょうか?

そう。答えは、「PMIを着実に実施する」ことです。

詳しくは、中小PMIガ イ ド ラ イ ンに細かく書かれています。127ページにも及ぶ力作です。行政の本気度が伝わってきます。それだけ、国にとってもM&Aの成功が重要なことなのです。ぜひご一読ください。

そうは言っても、これだけの文章をしっかり読み込んで実施するのは大変なことですよね。今回のような「毒」を避ける、人材の文化の違いや感情面に配慮したPMIのポイントについてお伝えしたいのですが、長くなってしまいました。シンプルなポイントに絞り込んで、次回にお伝えしたいと思います。どうぞお楽しみに。

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