先月お亡くなりになりました稲盛和夫氏が創業した京セラは、実は数多くのM&Aを積極的かつ効果的に行って一代で成功を収めたということは有名ですね。つまり、M&Aは大企業だけが行うものではなく、中小企業こそ経営課題の解決方法として採用すべき戦略だということです。
こちらの記事では中小企業の人材不足問題を解決する劇薬としてのM&Aについて、3回にわたってお届けしております。
前回は劇薬であるM&Aの、失敗する=毒にもなり得る可能性についての話をしました。そしてその毒を消す「解毒剤」の役割としてPMI(買収後の統合プロセス)と言う解決方法があると言うところまでお話ししてきました。


今回はそのPMIのコツについて、私の体験を振り返りながらポイントを絞ってシンプルにお伝えしたいと思います。
PMIは買収前から始まっている
企業買収を計画するときには、その効果について思いをはせることと思います。販路拡大、人材確保、シナジーによるコストダウンなど。ですが、それらは買収後に組織の統合を果たせなければ、すべては絵に描いた餅になってしまいます。
それだけ重要なPMIですが、ゆっくりじっくり実行すれば良いと言うものでもありません。一般的には100日プランと言われていて、およそ3ヶ月で成し遂げないと、いつまでもM&Aのメリットを得られないばかりか、組織に歪みをもたらしてしまうと言われています。
M&Aが成立してから、「さて、PMIの計画も立てるか」と計画をスタートさせているようでは、とても100日で達成できるとは思えません。つまり、M&Aの調査や交渉をしている最中からPMIの計画を立て始めないと、全然間に合わないと言うことです。
計画と言うのは、具体的にはどんなプロセスがあるかを洗い出し、どの担当者がいつまでに何を成し遂げるかを明確にすることです。かなり緻密な作業になります。
組織の違いを見える化する
2つの組織の運営方法が全く同じということはありえません。それぞれに違いがあるはずです。その違いを明らかにしていきます。
- 人事制度
- 会計制度
- 営業・製造・仕入れ・物流・庶務など運営のプロセス
- その他、主要なルール
この明確化には、お互いの組織の違いを理解すると言う目的があります。買い手が組織の制度導入するにあたって、ギャップの大きなポイントを理解しておく事はスムーズな統合に不可欠です。これも地道な作業になりますが、一つ一つリストアップしていきましょう。
また、この比較表は今後の制度改革の土台としても使えます。基本的には制度というのは買い手企業側の制度をそのまま導入するのがセオリーです。しかし、売り手側企業の方に優れた制度があったとき、統合完了後になるべく早く、その制度を会社全体に適用できると買収のメリットを享受できることになります。
また、大きなギャップではなく、柔軟に対応できるプロセスであれば、統合時に両社の制度を変えて早い段階でシナジーを得られる可能性があります。
いずれにしても、このような統合計画は早めに作る必要がありますので、リストアップは早めの段階で完了させたいものです。可能でしたら、事業DD(デューデリジェンス:価値算定のための調査)の段階で、主なものは把握できているとベストですね。
心理状態をモニタリングする
投稿中も、統合した後も心理状態を常に把握しておくことが必要です。精度によってはストレスなく自然に導入できるものもありますが、やはり抵抗感の大きいものもあるからです。そのような抵抗感の大きい制度を続けざまに導入していく事は組織にストレスをもたらします。ストレスレベルが高くなったと判断したときには、コミニケーションの仕方を工夫したり、導入する制度の順番を入れ替えたりなど、柔軟に工夫をする必要があります。
モニタリングの方法としては、ES(従業員満足度)サーベイを行うことで早く一律に情報収集ができます。ところが、そんなに頻繁にESサーベイを行うのも大変です。地道ではありますが、キーパーソンへのヒアリングと対話を細やかに行うことで、生の声を吸い上げることをお勧めします。現場に行ってコミュニケーションをとることで、信頼関係を少しずつ築いていくことも重要です。
なお、このようなモニタリングは買い手企業の方にも行う必要があります。M&Aというのは両方の組織に何らかの心理的影響を及ぼしますので、PMIを慎重に進めましょう。
そうは言ってもM&Aは薬
M&Aを検討した理由を考えてみましょう。M&Aを決断せざるをえない組織の課題があったはずです。その組織課題は病巣のようなもの。そのまま放置すると組織が大変なことになります。それを放置せずに、まずは薬を処方してもらうことが大切。M&Aと言う選択は間違ってはいません。
とはいっても、PMIをしっかりと実行する事はとても難しいのも事実。実際、PMIの専門家は非常に少ないので契約するのが大変なんです。ですが、適切な専門家(主に中小企業診断士)に依頼して上手にしPMIを進めることがM&Aにおいては不可欠です。M&Aを検討し始めたときには早めに当方までご連絡いただけますと、専門家のネットワークを駆使して適切なサポート体制を構築させていただきます。